(第二回)空き家に住めない空き家バンク 2018.12.6

沖縄県今帰仁村(なきじんそん)の最初の一週間は、家探しから。

というのも、観光シーズンの沖縄は、ホテルがとにかく高い。家族で泊まると1泊3万円は下らない。しかしそうはいっても、家を見つけるまでの辛抱だと、今帰仁村のホテルを探し、外食ばかりはどうかと健康に配慮してキッチン付きの部屋を押さえた。

 

総務省による直近の調査では、全国の空き家は820万戸あり、2033年には3軒に1軒が空き家になるとはじいている(出典:総務省「住宅・土地統計調査」)。直近といっても2013年度の数値なので、今はもう1000万戸を超えてるんじゃないかとさえ思う。

 

人口1万人を切ったこの村にも、同様に「空き家」が沢山あった。ところが、不動産会社に問い合わせると「この村に、空き物件はない」と即答された。タイムリミット直前でなんとか見つけた家具付き物件は、道なき道を進む山奥にあって、「ハブが出るから、お子さんを一人で歩かせないでください」と言われる始末。 意外なところで苦戦することになった。ホテル暮らしは疲れるし、沖縄の夏はこんなに天候が不安定なのかと驚くほど最初の一週間は雨か台風ばかりに見舞われた。息子は外に出て遊べない日が続き、役場の人に教えてもらった村民プールに連れて行くことにした。南の島まで来てプールかと思いもしたが、ピチピチと楽しそうに泳ぐ息子を横目に、プールサイドで私はパソコンを叩いた。

 

思い描いていた「沖縄ライフ」とは全く違う展開すぎて、ただ気持ちは疲弊し、体力だけが奪われていった。意気込み勇んで東京から出発したのに、現実はこれか、と。

家族を守らなければならないし、切込隊長(海兵隊員)として次のスタッフたちが入るための足場固めをしなければならない。それなのに、ミッションが何も進まない。

 

そんな時だ。

「でもこれって、実は、ものすごく体を張った“調査研究”なのではないか?」と。

この村には、目視でも明らかに「空き家」と分かる物件は沢山あるけど、マーケットには流通しておらず、住みたいのに住めないという現実がある。

一方、隣の名護市に行けば、いつでも住める状態の空き物件が山のようにある。今帰仁から名護市は車で20分くらいの距離なので、今帰仁で探すのに疲れ果てて「隣の名護市に住もう」となる。

少なくとも、そうなった人間がここに一人いる。まさに、私。

 

これは、なんと“もったいない”現象だろうか。一人でもいいから移住してもらおうと、行政が家を提供するまちもあるというのに。東京・有楽町で「移住・定住フェア」に何度出展しても、お試し移住で人を何人呼んでも、実際住みたい人が、今、住む物件と出逢えないまちは、永遠にゴールテープを切れないマラソンをしているようなもの。

ということは、住みたい人と、住める家を出逢わせる仕組みを、この村に作る必要がある。それには、村の人たちに、「貸さない理由」あるいは「貸せない理由」を教えてもらうこと。それが次へのステップだ。

 

そして、このロジックは、この村だけの話ではないんじゃないかと思った。

−定量から定性へ−

行政学の第一人者である京都大学名誉教授(現在は立命館大学教授)の真渕勝氏が監訳した『社会科学のリサーチ・デザイン—定性的研究における科学的推論』(勁草書房・2004)に書いていたとおり、定量と定性の行き来をしながら、私たちは物事を考える必要がある。私たちZABにとって、今帰仁村は、まさにそのフィールドワークであり、他に代えがたい「知の拠点」だと気付いた。

 

どんなに精錬されたプレゼンテーションをしても、どんなにカッコイイ言葉をちりばめた報告書を作っても、その土地に行き、その土地で暮らし、その土地で生きる人たちと同じものを食べ、同じ空気を吸い、喜怒哀楽を共にした人の言葉以上に強いものはない。

 

私たちは、この村のこの具体的事象と向き合うことで、人口減少の中の地方創生という、一見矛盾する「問い」に対する「新たな答え」を見つけることができるのではないかと思った。

 

私の根底には、先の真渕先生が、北海道夕張の財政破綻の際にいち早く現地へ赴いたという話につながる。真渕先生の夕張財政破綻のコラムを読むと、夕張の寂れた喫茶店のテーブルの色、コーヒーの味、店の外に漂うまち匂いまで伝わってくるようだった。これは文字からの想像に過ぎないけれど、目の前に広がったその光景が私の根底にあることは間違いない。

 

私もこんな風に「行政」の仕事をしたいと思った。

 

筆者と息子。やんばるの海にて。

 

 

いけ

いけ 別府生まれ・別府育ち。趣味は海鑑賞・ヨガ・寝ること。

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