(第四回)「この村のこと、私に教えてください」 2018.12.10

私は、1週間ぶりに沖縄に戻ってきた。夏休み中につき、もれなく息子も一緒だ。

今帰仁(なきじん)村での仕事、樋渡がよく言う「切込隊長(海兵隊員)」としての仕事が、私にはまだ山ほどあった。

前回は、村内で住む場所が見つからず途方に暮れた1週間だった。地元の方々が粘り強く最後の最後まで寄り添ってくれ、私は、「空き家」が目の前にあるのに、そこに住むことができない現実と真っ向から対峙する機会を得た。

那覇空港から車で2時間、美ら海(ちゅらうみ)水族館の近くの今帰仁村へ戻る途中、その景色は、どこか懐かしさを感じるようになっていた。

今回は2週間だ。息子は沖縄の風景にもすっかり慣れ、助手席でKindleを読んでいる。大満喫中の息子を横目に、私は息子とこんな挑戦ができていることが嬉しかった。

 

喜びは束の間、翌日私は今帰仁村の区長会で洗礼を受けることとなった。

1万人足らずのこの村は19地区に分かれており、その字(あざ)に1人ずつ区長さんがいる。なので、全部で19人。中には50代の若い方もいるが、概ね6070代といったところであろうか。

この情報連絡の場をお借りして、私たちZABが今帰仁村でどんな仕事をしようとしているのか、区長さんたちに分かりやすく伝えようと意気込んでいた。

今回の事業の1つでもあるワークショップ開催もお知らせしないといけない。フライヤーも作った。わざと文章は入れず、イラスト多めにした。タイトルも「ワークショップ」とせずに「ゆんたく会」と書いた。

“ゆんたく会 きーみそーれ”

親しみをこめて沖縄の方言を使おうと、地元の人にイントネーションまで教えてもらった。一人でも多くの人に、ワークショップに参加してほしい、そう思った。

 

ところがどっこい、この19人は、私の想像と全く違っていた。なんと、霞ヶ関の省庁名もすらすら言える高齢者集団だったのだ。

私の説明が終わるやいなや、待ってましたとばかりに質問が始まった。

「事業名は何?」「事業費はいくら?」「これはどこの省庁と一緒にやってるの?」

「これ、地方創生交付金?」「てことは、事業は3年計画?」「会社名に“空き家” ってあるけど、村内の空き家をどうかするの?」「村として、空き家対策は一向に進んでないようにみえるけど、役場としてはどう考えてるの?」「行政の方向性はどうなの?」

19個の口から、質問だけが私に向かって矢のように飛んできた。しかも、誰もファシリテートをしない。無秩序に、質問のような装いの“意見”が同時多発的に沸き起こった。

担当課である総務課の職員に付き添ってもらえば良かった。断られても、彼を引っ張って来れば良かったと後悔した。

私はコンサル側の人間なので、村の考えを述べる立場にはない。だけれども、

「私は担当ではないので…(後から役場の担当者に聴いてください)」など言おうものなら、益々ヒートアップすることは簡単に予測できた。

答えられることは、私から答えようと腹をくくった。

「これは、地方創生交付金事業で、期限は年度末。移住定住促進事業という名前で…」

我々が持つ事実は、一つ一つ丁寧にかつ淡々と伝えた。

それと同時に、私の頭の中では「作戦変更」の準備が始まっていた。

 

当初、役場との打合せでは、小学校単位で村民に集まってもらう。そして、村にある3つの小学校の体育館で我々が住民向けの説明をして、ワークショップを開催するというストーリーだった。今日は、その開催のお知らせをするだけ…のはずだった。

でも、それではダメだ。集めるのではなく、私たちが皆さんのところへ行かねば。

そして、説明をするのではなく、こうして意見をくださる方々のお話を伺わねば。

19人の顔を見ながら、私の頭の中は忙しく考えていた。

私たちの方が何も知らない。この村のこと皆さんに教えてもらいたい、素直にそう思った。「皆さんのところへ伺っても良いですか?」私の口からその言葉が出たとき、これまで部屋中に溢れていた質問がピタッと止まった。

 

このときの決断は、後に内部でも反対の声が出た。ある人からは、「それをやると、キリが無いよ」とも言われた。10月に入った今、あの時のこの判断が良かったのか どうか、正直まだ分からない。だけど、やれるだけのことはやろうと思った。

今必要なのは、形式的に立派なワークショップをすることではない。地域の方々と一緒にこの村のことを考えることが重要なのだ。だから、私たちは地域の方々の思いを聴かせていただきたい、そこからこの事業のゴールを組み立てたい、そう思った。

 


普段は使われていない「空き家」も、旧盆にはこうして親戚が集まります。

 

 

いけ

いけ 別府生まれ・別府育ち。趣味は海鑑賞・ヨガ・寝ること。

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