(第十五回)魂をいれる 2019.2.25

国公立大学入試・前期日程が今日から始まった。
20年前のことなのに、まるで数ヶ月前の出来事のようにあのときの自分を思い出す。慣れない東京のホテルに泊まる不安とワクワク、ホテルの朝食会場に差し込む太陽の光、試験会場に向かう寿司詰めの電車。一つ一つが愛おしい。
魂を入れた出来事というのは、幾つになっても色濃く私たちの記憶に残り続けるのだろう。

 

ZABの仕事も然り。こんな仕事の濃さも、こんな移動の距離も、とにかく“こんな”1年はもう2度とないだろうと思う。
驚いたのは、夏から秋、秋から冬にかけての“季節の移ろい”が全く分からなかったことだ。それは私が東北から沖縄まで移動していることも、原因の1つかもしれない。12月初旬、九州・別府で秋らしい紅葉を見たかと思えば、東北・北秋田は初雪。沖縄・今帰仁(なきじん)にいたっては半袖の“かりゆし”を着て車の中はエアコンをつけている。どのエリアも日帰りで立ち去るのではなく「住み込み」して働くから、その土地の季節にどっぷりつかり、私の身体は夏から冬の行き来を繰り返す。

 

昨年11月の終わり、私は久しぶりに別府に戻った。
プライベートではない。126日(木)に別府市鉄輪(かんなわ)で開催する企画(「ZAB勉強会」)をまちのキーマンたちに説明するためだ。
故郷といえど、ひたすら仕事をして嵐のように次の場所へと移動するというパターンばかりだったが、今回の帰省は、思わぬエネルギーチャージになった。
市役所の建物に到着するや否や、「新聞見ました」と幾人もが声を掛けてくれた。特に、50代の福祉プロパーの非常勤職員から「あの記事を読んで、私、嬉しくなって主人にも自慢したのよ」と言われたとき、私は胸が熱くなった。

 

私は福祉部局に通算2年間在籍した。これまでの前例主義に反発し続け、課内ではいつも孤独なランナーだった。役所の外には私を応援してくれる味方が沢山いるものの、昼休みに一緒にランチする気の置けない仲間は、私にはいなかった。
けれど、声なき「仲間」が、あのときから私の傍にいたことを今になって知った。

 

福祉や社会保障というのは、決して華々しい部署ではないけれど、私は、行政が一番大切にしないといけない分野だと思っている。なぜなら、住民に最も寄り添い、人の痛みに向き合う、市役所の存在意義そのものの部署だからだ。
極論すると、人の痛みを知らない人が、企画や観光や地方創生の部署に就いてはいけないと私は思っている。人の痛みを我がことのように感じ、解決の方策を考えることができる人だけが、政策に「魂」を入れることができる。

 

お金を出せば、たいていのサービスは民間企業が提供してくれる。
高度な医療も子どもの教育も、保育だってお金があれば選ぶことができる。
しかし、地方でお金がある層なんてごく一部で、大半はそうではない。住民は、市役所に相談し、最後の砦として市役所を訪れ、選択肢のない中でサービスを受ける。
果たして、そのサービスが、その住民のかゆいところに手が届いているのか。永田町・霞ヶ関で生まれた法律や制度は、地方の現場でこのように運用されることを望んでいたのか。法律が生まれた成り立ちから調べると、現場の運用が誤っていることは少なからずあった。
常に、この闘いだった。

 

「これまではそうだったから」これが私の一番嫌いな言葉。
それで目の前の人が満足してくれたらよいけれど、そうではない場合、私たちはもう一度制度運用を見直さねばならないのではないか。
法律は、過去の課題に対する産物であり、その法律が生まれてから先の未来は、知らない。社会はめまぐるしく変化し、住民(国民)の困りごとは、過去の予測を超えて多岐に亘り複雑になっていく。私たちの仕事の根幹である法律が、今の社会の現状を捕捉できていないのであれば、市役所が条例や規則を作り制度の隙間を埋めないといけないのではないか。
とはいえ、「できないことは、できない」と言うのも市役所の役割である。税の再分配機能である行政は、打ち出の小槌を持っているわけでもなく、収入と支出のバランスを考えながらサービス提供をせねば、財政は破綻してしまう。財政破綻は、住民サービスの低下そのものであり、人が離れ、そのまちは事実上“消滅”してしまう。
国家の三原則、土地・人・権力。この中の「人」がいなくなると、まちは事実上消滅する。だからこそ、人が集まる魅力あるまちづくりというのは不可欠なのだ。
私は、人口ビジョンと総合戦略の意味をそのように理解している。

 

*慣れない文章を書く不安の中で、皆様から寄せられる言葉が大きな励みです。本当にありがとうございます。

いけ

いけ 別府生まれ・別府育ち。趣味は海鑑賞・ヨガ・寝ること。

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